何も変わらない、色褪せた世界。色褪せた上辺だけの、薄っぺらな付き合い。
「それで? それでその後、小童谷先輩はどうなさったの?」
「先輩はやめなよ。同学年だぜ?」
「あっ でも…」
指摘されて戸惑う女子生徒。
明らかに計算されたハニカミ顔。気持ちが冷めるのを自覚しながら、陽翔は肩を竦める。
「まぁいいや」
「え?」
「呼び方なんて、どうでもいいよね」
「あっ でも…」
「ヘンな突っ込みしたね。悪かった。それよりもさっきの続き」
言葉を挟もうとする少女を強引に遮り
「俺はどうしたかって? どうもこうもないよ。ここは日本とは違うんだっ なんて頭ごなしに言われちゃうとさ…」
話始めた矢先
「あっ 小童谷先輩」
陽翔たちのテーブルに近づく少女。陽翔の事を先輩と呼ぶということは、この少女も唐渓の生徒のようだ。
「まぁ みなさんお揃いで。何? イギリスのお話? 私も聞きたいわ」
甲高い声と共に身を乗り出す。
何組の誰なのかは知らない。
だが、それを言うなら今ここにいる六人の女子生徒だって、全員ほとんど知らない存在なのだ。別に一人くらい増えたって、何の問題もない。
「いいよ。席、一つ増やしてもらおうか?」
だがそんな陽翔の声を、剣呑な声が遮る。
「あら、あなたには関係ないでしょう?」
「何よ、その言い方」
言い返す少女の右の手首をグイッと掴み
「あなた、柘榴石でしょう?」
手首を飾るガーネット。
「浮気は、よくありませんわ」
他の五人の女子生徒がクスクスと笑う。
そんな一同をグッと睨み、右手首を抑えながら少女は無言で踵を返す。少し離れた場所で少女を迎えるのは、きっと彼女の母親だろう。大方、親と食事にでもきていたのだろう。
「柘榴石?」
遠ざかる背中へ視線を投げる陽翔。
「くだらない集まりですわ」
「そうそう」
明らかに侮蔑を含ませる少女たち。首を捻る陽翔に、一人が身を乗り出す。
「四月に転入してきた男子の誕生石が、柘榴石なの。それで柘榴石倶楽部なんてのができてしまって」
なるほど、ファンクラブみたいなものか。
納得し、それ以上は関心も湧かない。
所詮は自己満足。ズレた愛情になど興味もない。むしろ、そんな好意に取り囲まれた男子生徒に同情する。
「転入生って何年?」
食器を手放し、膝の上で両手を組み、右手の人差し指でトントンと叩く。
「二年? 三年?」
「二年生」
「何組?」
「二組ですわ」
陽翔の質問も答える言葉も、何気ない。
「じゃあクラスは別か。名前は?」
「山脇くん。山脇瑠駆真くん」
陽翔の、指が止まった。
くーまちゃん
色褪せた、澱んで寂れた陽翔の世界が、急激に息づき始める。止まった時間が、動き出す。
「美鶴」
瑠駆真がそっと触れる頬は温かく、生きていることを感じさせる。
ここは瑠駆真が美鶴母子に貸し与えた、マンションの寝室。
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